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故・江藤淳氏の本を開いた(4)

故・江藤淳氏の本を開いた(4)

 

前回、江藤氏の著書『小林秀雄』からいくつか引用したが、それは一部をのぞいて、小林秀雄ドストエフスキー論である「悪霊について」からだった。

 

お読みになった方はおそらくその「野生」に驚かれたと思う。

江藤氏は、その引用文の少し前のところで、「精神の渇き」について書いている。

それは、ドストエフスキーが「ネチャアエフの徒」に見出したものであるだけでなく、小林秀雄が、自分の周囲の「インテリゲンツィア」に見出したものでもある。(なおさらに、小林秀雄が、自分の中に見出していたものだった。)

江藤氏は書いている。

 

以下引用―

 

 

≪この「精神の渇き」が言葉―「思想」に過大な現実感をあたえ、それを生かすとすれば、そこに生ずるのは、「思想」の生々しさが現実をおおいかくす、つまり観念や空想が現実より現実的に感じられるという心理的倒錯である。(中略)このような倒錯は、「若い文化」のなかでしかおこりえない。ここでは空想と現実、観念と実在の接点は明瞭でなく、政治的行動は奇妙に文学的な衝動によってつらぬかれ、文学的世界には奇妙に政治的な現実が侵入してくる。小林が周囲に見たのはこういう光景であって、(中略)そこでは「思想」は思想に構成されるひまもなく生きてしまうのであり、空想や想像は文学的、芸術的秩序をあたえられる前にうごめいてしまうのである。渇望のあまりの激しさが、すべてのものに成熟を許容しない。「思想」も「想像」も、あるべき場所におちつくよりさきに崩壊してしまう。≫P246、247

 

 

以上引用―

 

 

そうして江藤氏は続けて書いた。

 

 

以下引用―

 

 

≪ここで想起されるのは、すでに小林自身にも同様のことがおこっていたということである。≫P247

 

 

以上引用―

 

 

「精神の渇き」は、「渇望のあまりの激しさが、すべてのものに成熟を許容しない」し、「あるべき場所におちつくよりさきに崩壊してしまう」、もしそのようなものだとすれば、可能ならば回避したいものだ。

 

その後、小林秀雄は、「常識」に活路を求めようとする。

江藤氏は書いている。(引用文中の「彼」とは小林秀雄のこと)

 

 

以下引用―

 

 

≪(前略)だが、この「苦痛」―「渇望」を追った彼がさぐりあてたものは、「精神というある邪悪な傾向性」である。それが「何をおいても現に在るものを受け納れまい」とする以上、そこからは「他者」は消えぬわけにはいかない。インテリゲンツィアは「大衆」から疎隔しているというが、実は彼らが「精神」という「悪」に身をゆだね切っているかぎり、「大衆」のみならず「他者」が消え失せるのである。インテリゲンツィアのなかに「他者」を求めようとした小林の意図は、このような二律背反を最初から含んでいた。「ドストエフスキの生活」によって「成熟」しようとした小林は、この二律背反にドンデン返しにされて、ふたたび「他者」や外界の喪失のなかに投じられかける。そこに菊池寛があらわれ、「社会化された私」の概念は、あの「苦痛」から「常識」へと、いわば外面化されたのである。「常識」の世界とは、いわばそこに「他者」がいるような世界である。真の「成熟」はこのような世界でしか達成されない。≫P259

 

 

以上引用―

 

 

小林秀雄は、作家・菊池寛を高く評価するようになった。(菊池寛は、一八八八年生まれで、一九〇二年生まれの小林秀雄よりも、十四歳年上ということになる。)「菊池寛論」は、「ドストエフスキの生活」が完結する少し前に書かれた。≪「精神の渇き」に悩んだ小林が、「常識」に活路を求めようとする端緒がここにあらわれている。≫(江藤氏、P254)

江藤氏は、菊池寛について、次のようにも書いている。

 

 

以下引用―

 

≪菊池の独創は、「文学の社会化」、つまりいわゆる純文学作家が自己の内にしか認めようとしなかった「読者」を、自己の外部の「民衆」に発見し、彼らのみを信じて語りかけようとしたところにある。≫P263

 

以上引用―

 

 

なお、小林秀雄が「菊池寛論」を書いたのは、いわゆる「二・二六事件」(青年将校たちのクウ・デタ)が勃発した昭和十一年二月の少し後、昭和十二年一月頃である。

 

私は小林秀雄が活路を見出したという「常識」に興味がある。

菊池寛は「大衆」にではなく「民衆」に語りかけようとした、という。

「大衆」と「民衆」との違い、そして小林秀雄(あるいは江藤淳氏)のいう「常識」とはどのようなものか、この本を頼りに考えてみたい。

 

 

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